脳神経外科

脳神経外科
ドクターインタビュー

確かな技術とチーム医療で疾患に応じた治療を選択
部長 小磯 隆雄

#01 獣医志望から宇宙への憧れ、そして父の病で脳外科へ

私は東京都に生まれ、小学生の頃に茨城県ひたちなか市へ移り住みました。筑波大学を卒業後、国立循環器病研究センターで専攻医として経験を積み、のちにスタッフとして勤務しました。その後、北海道の病院で脳神経外科医として勤務し、現在は当院で脳神経外科の部長を務めています。脳外科疾患全般を扱い、特に血管外科手術、脳血管内治療、脳腫瘍の診療を専門としています。

医師になったきっかけはいくつかあります。子どもの頃から生き物が好きで、最初は獣医を考えていましたが、動物実験の現実を知って抵抗を感じました。それとは別に、宇宙飛行士への憧れがあり、宇宙飛行士の多くが医師出身だったことから医学の道に関心を持ちました。そして高校時代、父が脳梗塞を発症したことをきっかけに医師を志すようになり、同時に脳神経外科に興味を抱きました。

#02 北海道と大阪で磨いた技術を地域医療へ生かす

医師になってからは、より高い技術を求めて北海道や大阪で修行を重ねました。北海道では“神の手”と呼ばれる先生方のもとで手術を学び、大阪の国立循環器病研究センターでは手技を徹底的に磨く環境に恵まれました。技術を突き詰める文化に触れ、努力が認められてスタッフに昇格した経験は、自分にとって大きな財産です。

私は治療において、最先端よりも標準治療の質をどこまで高められるかを重視しています。脳外科手術は執刀医の技量で結果が変わる世界です。だからこそ、ひとつひとつの手術を丁寧に行い、技術を磨き続けることが大切だと考えています。北海道や大阪で得た学びを、水戸の地域医療の中で活かし、患者さんにとってより良い医療を届けたいと考えています。

#03 脳外科の戦略性に魅了された

私はもともと「手術がしたい」という思いが強く、外科医を志しました。外来や薬で経過をみるだけでなく、自分の手を動かして直接治療できることに魅力を感じていました。加えて、身内が脳梗塞を患った経験もあり、脳外科には特別な関心がありました。実際に研修で回ってみると、脳外科の手術はアプローチの角度や手順など、戦略を立てる要素が多く、考えながら挑む面白さがありました。自分にはこの分野が合っていると感じた瞬間でした。

最近は医師のワークライフバランスが注目されることも多いですが、私には「仕事と人生を切り分ける」という感覚があまりありません。むしろ、医師として生きることそのものが自分のライフワークだと思っています。

#04 どんな症例も諦めず、丁寧な手術と分かりやすい説明を徹底

どんな症例でも断らず、目の前の患者さんに対して最善を尽くすことを心がけています。脳外科の手術では、1ミリにも満たない細い血管をつなぐ場面があります。顕微鏡を使い、糸を通して血流を確かめながら慎重に進めます。血管の内側がわずかにめくれていたり、動脈硬化が強かったりすると血の通りが悪くなることがあるため、原因を一つずつ確認し、洗浄してから丁寧に縫い直します。薬で血液をさらさらにする処置を行うことで出血しやすくなる場合もありますが、止血をしながら慎重に対応します。

これまでに行ってきたバイパス手術の中で、つないだ血管が詰まってしまったケースもありました。そのときはもう一度開けて洗い、縫い直し、再び血流を取り戻しました。手を止めず、できる限りのことを続ける。それが自分の手術に対する姿勢です。

患者さんへの説明で大切にしているのは、「専門知識のギャップを埋める工夫」です。医学用語を並べても伝わらないので、なるべく身近な例えを使います。たとえば、頭部外傷の説明をするときには「脳は豆腐くらいの柔らかさ」と伝えます。お弁当箱に豆腐を入れて揺らすと崩れてしまうように、脳も強い衝撃を受けると傷つく、というイメージです。

#05 疾患に応じて治療法を選択

私の専門は脳の血管疾患ですが、現在の治療は大きく分けて「開頭手術」と「血管内治療(カテーテル治療)」の2つがあります。割合としてはおおよそ4対1くらいで、手術が多い状況です。ただ、これは私が手術を好むからというわけではなく、疾患によってより良い成績が示されている治療法を選んでいる結果です。ガイドラインや論文で手術が第一選択とされている場合は手術を行い、リスクが高い場合や血管内治療の方が適している場合はカテーテル治療を選択します。

検査については、すべての患者さんにカテーテル検査を行うわけではありません。最近は造影CTの性能が向上しており、CTだけで十分に診断できるケースも増えています。ただし、より詳細な情報が必要な場合や血管内治療を検討する際には、カテーテル検査を行い、治療が可能かどうかを判断します。

#06 患者さんが納得できる選択を支援

当院では、私が赴任するまでは血管内治療の体制が整っておらず、適応のある患者さんは他院へ紹介していました。現在は院内でどちらの治療にも対応できるようになり、より多くの患者さんに最適な方法を提供できる体制が整っています。

治療の説明では、どちらかに偏らず、検査結果や根拠に基づいて公平にお伝えしています。その上で「どちらの方法がより良い結果をもたらすか」を一緒に考え、最終的に患者さんに選んでいただくようにしています。

近年は全国的に、手術よりも血管内治療を行う医師が増えています。そのため、手術という選択肢を提示できないケースも少なくありません。当院では、どちらの治療も提示できる点が強みだと思っています。患者さんが納得して治療を選べる環境を整えることが、私の役割の一つだと考えています。

#07 手術と血管内治療を一貫して行い、安全性と効率を高める

当院で行っている血管内治療の主な対象は、脳動脈瘤と頚動脈狭窄症に対するステント留置術です。さらに、脳梗塞の際に血栓を回収する治療もガイドラインで推奨されており、緊急時には必ず対応しています。

また、手術をより安全に行うために、手術の前に血管内治療を組み合わせることもあります。たとえば脳腫瘍や動静脈奇形など、出血のリスクが高い症例では、手術前に血管を一部塞ぐことで手術中の出血を抑えることができます。

私は手術と血管内治療のどちらも行っているため、手術前に自分で血管を詰め、そのうえで開頭手術を行うこともあります。これにより、治療全体の流れを一貫して管理でき、患者さんへの負担を減らしながら安全性を高めることができます。

手術と血管内治療をそれぞれ別のチームで担当する施設も多い中で、治療全体を通して状況を見極め、その人にとって最も適した方法を選べるのが利点です。手術時間を短くできたり、負担の少ない方法を取れたりと、結果的に患者さんにとってのメリットが大きくなると感じています。

#08 脳神経内科と協力し、チームで最適な脳卒中治療を実践

脳卒中の診療では、脳神経内科との連携が欠かせません。地域によっては、脳神経内科の先生が脳卒中をあまり担当されないところもありますが、当院では脳神経内科の木村先生がしっかりと診てくださっています。内科的な知識が非常に豊富で、カンファレンスを通じて治療方針を共有しながら協力しています。手術が必要な場合には適切に紹介していただけますし、私たちからも相談できる関係が築けています。こうした体制は他の病院ではなかなか見られないと思います。

地域連携においても、患者さんが直接当科を受診されるケースが多いです。関東では脳神経内科が脳卒中を担当する文化があまり根付いておらず、「脳卒中=脳外科」という形が一般的だからです。そのため、まず私たちの外来で診察を行い、必要に応じて脳神経内科と連携しながら治療を進めています。お互いの専門性を尊重し、相談し合える関係ができていることが、当院の強みの一つだと感じています。

また、脳神経外科の診療は医師一人で完結するものではありません。手術を行う際は必ずカンファレンスで症例を検討し、複数の医師が意見を出し合って治療方針を決めています。独断ではなく、チームとして最も適切な方法を選ぶ。そのプロセスを大切にしています。

小磯 隆雄 (こいそ たかお)
職名 部長
出身大学(卒業年) 筑波大学(平成20年)
専門領域 脳外科疾患全般/血管外科手術/脳血管内治療/脳腫瘍
認定資格等

日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医・指導医
日本脳神経血管内治療学会専門医
日本脳卒中学会 専門医・指導医
日本脳卒中の外科学会 技術認定医
博士(医学)